約 1,746,092 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1661.html
空賊船もといアルビオン王国最後の軍艦、イーグル号に乗って雲間を進んでいくと、大陸から突き出た岬と、 その上に建つ城が見えてきた。ウェールズによるとそれがニューカッスル城らしい。 「なんか、今にも折れそうな所にたってんなあ。」 「はは、実際そうだから何も言い返せないな。皇太子失格かもしれないね」 ウェールズが少し寂しそうに答える。 「ちょっと黙ってなさいよ」 空気の読めない発言をしたセッコをルイズが思い切り叩いた。 「いでえ・・・う、うおっ うおああっ!ルイズ、ルイズよお」 「いいから黙ってなさい」 「ちげーって、あれ、あれなんだ!あれ!」 あまりに騒がしいので仕方なく指差した方を見たルイズは、ぽかんと口を開けた。 「・・・」 曲がりなりにも軍艦であるイーグル号の軽く2倍、いや3倍はありそうな巨大な船が城の上空に陣取っている。 よく見ると船体から無数の大砲が突き出し、周囲には竜が舞っていた。 「あれは、ロイヤル・ソヴリン号。いや、今はレキシントンに改名されたのだったかな? 叛徒どもの旗艦で、ニューカッスルの空を封鎖している。もとは本国艦隊の旗艦だったのだがね、因果なもんさ」 ウェールズが説明した。 「さて、あんなものと正面切って戦えるわけもないので迂回するぞ。岬の下側にまだ知られてない港があるのだ」 雲中を通り、大陸の下に出ると、あたりは真っ暗になった。 「この辺りは貴族派の船が絶対に近づかない安全地帯さ。 もっとも、かなり熟練してないと座礁の危険があるがね。 なに、王立空軍の航海士にとっては造作もないことさ」 あいつらは、空に関しては錬度が足らないのさ、とウェールズは付け加えた。 しばらく闇の中を進んだところに開いた穴の中をゆっくりと上昇していくと、巨大な鍾乳洞の中に出た。壁が白く光っている。 岸壁の上には大勢の人が待ち構えていた。 「まるで空賊の秘密基地ですな。殿下」 「まさに空賊なのだよ。子爵」 ウェールズと共にタラップを降りると、一人の老メイジが走り寄ってきた。 「ご報告がございます、殿下。叛徒どもは明日の正午に攻城開始すると通告してきました。」 「してみると、間一髪だったわけだな。戦に間に合わぬは、これ武人の恥だからな! そうそう、こちらからも報告することがあるぞ、パリー。」 ウェールズは、にやりと笑った。 「喜べ、皆の者!硫黄だぞ!!これだけあれば無駄死にではなく、王家の誇りと栄誉を示して敗北することができる!」 ウェールズの実に嬉しそうな叫びに、周囲から歓声が上がる。 パリーと呼ばれた老メイジは、目に涙を浮かべて答えた。 「先の陛下におつかえして60年、こんな嬉しい日はありませぬぞ、殿下。して、その方たちは?」 パリーはルイズ達の方を見た。 「トリステインからの大使殿だ。重要な用件で、王国に参られた」 「これはこれは大使殿、殿下の侍従を仰せつかっておりまする、パリーでございます。 遠路はるばるようこそこのアルビオン王国にいらっしゃった。 たいしたもてなしもできませぬが、今夜はささやかな祝宴が催されます。ぜひとも出席してくださいませ」 パリーが、深く、深く頭をたれた。 “余計なことを言い出さないように”置いていかれたセッコは、給仕に案内された客室でボーっとルイズとワルドを待っていた。 パーティまではまだ時間があるらしい。 待っていると、扉が開いて悲しそうな表情のルイズだけが戻ってきた。 「あれえ、おっさんは?」 「殿下とちょっと話があるんですって。後、城内もちょっと見て回りたいとか。」 「ふうん。で、手紙はどうなったよ?」 ルイズは、懐から封筒を取り出した。 「もちろん、ちゃんとここにあるわよ。・・・やっぱり、恋文だったらしいわ。 何度読まれたのか判らないぐらいぼろぼろで、宝箱に入ってた」 「らしくねえなあ。ところで、どんなことが書いてあったんだ? アンリエッタの感覚ではやばい内容みてえだがよ。」 「それは、判らないわ。当たり前だけど読んではないもの」 全く、律儀な奴だなあ。 「読めばいいじゃねえの。」 「そんな無礼なことできるわけないでしょ!」 「いや、アンリエッタは取り返せと言ったけど、見るなとは一言もいわなかったしよお。 それに、その封筒、封されてねえじゃん。ウェールズも別に気にしないと思うぜえ。」 「そ、そうかしら」 「そうそう。」 「そ、そうよね、うん」 ちょっと躊躇ったものの、結局手紙を読み始めたルイズの顔が段々赤くなってきた。 どう見たって動揺してやがる。 「な、なにが書いてあるんだあ?」 「え・・ええ・・・えい・・・永遠の・・・」 「なんなんだよお。」 「ちちち誓う・・・」 「おいルイズ正気に戻れ。」 ルイズが落ち着くのを(セッコにしては)辛抱強く待ってもう一度声をかけた。 「なにが書いてあったんだ?」 「・・・始祖に誓う、愛」 「はあ?」 「要するに、結婚の時言うようなセリフよ、永久に思い出になるようなね。 確かに、結婚相手に見られたらまずいわ。重婚扱いになるかもしれないし」 「で、それがアンリエッタ以外の手に渡るとどうなんの?」 「婚約破棄、同盟解消で済めばいいけど、ヘタしたら敵対かもね。 でも、姫様の大切な思い出なのよ。ちゃんと、返してさしあげないと」 ・・・ 「ルイズよお、それちょっと貸して。」 「なんでよ。あなたこの国の字は読めないんじゃなかったっけ?」 「いいから。」 ・・・ 「わかったわよ」 ルイズは渋々セッコに手紙を渡した。 「こんな、こんなオレが、オレ達が生きるのに邪魔になるだけの秘密おあああ」 「何よ?」 「オレは、この秘密は、欲しくねええええええええええ!」 「ちょっとセッコ!何すんの!」 思いきり、手紙を握り潰す。一滴の泥が、セッコの右手から滴り落ちた。 「あ・・・ああ・・・この・・・この馬鹿ああああああああああああああ!!」 ルイズが絶叫する。 「どう、どうやって姫様に説明すればいいのよ!ワルドにだってこんなこと言えないわ!あんたなんか知らない!」 「いや、ちょっと待てってルイズ。」 「待たないわ!知らないって言ったでしょ、もう勝手にしなさい!」 「おいいいいい」 ルイズは、それきり部屋を出て行ってしまった。うう・・・ セッコが呆然とルイズを見送ってしばらくすると、ワルドが入ってきた。 「パーティが始まるらしいぞ。君も出席するんだろう?」 「んん、わかった、おっさん。・・・違った、ワルド。」 「まあ好きに呼んでくれて構わんさ。しかし、使い魔が主人を泣かせるのは感心せんな」 「オレは、悪くねえ。」 「そうは見えないが」 「けっ。」 パーティは、城のホールで行われていた。 簡易の玉座にはアルビオンの王、老いたるジェームズ一世が鎮座し、集まった貴族や臣下を見守っていた。 明日が決戦、しかも敗北は決まっているというのに、皆やたらと明るい調子だ。 セッコとワルドは会場の隅でそれを眺めていた。 「明日戦争だっつーのにこいつら何やってんだ?今から準備すりゃ一人でも多く殺せるかも知れねえし、 逃げるなら全員助かるかも知れねえのによ。飯が豪勢なのはいいんだけどな。」 それにしても、話し相手がいけ好かないワルドだけってのは気が滅入るなあ。 ルイズは怒り狂って何処かに出て行ったまま戻ってきていない。 ウェールズと話してみたかったが、ジェームズ一世の横まで行くのはさしものセッコにも躊躇われた。 「それが、誇りって奴だ。貴族でないきみにはわからないだろうがね。・・・逆もまた真なり、かもしれないが」 ワルドが珍しく、ゆっくり言葉を選んでいるような調子で答えた。 「そうかなあ。」 「そろそろ、開式の演説が始まるようだぞ。我々は所詮余所者だ。静かにした方がよかろう」 ジェームズ一世がよろよろと立ち上がると、会場の全員がいっせいに直立した。 そして、とても老人とは思えないよく通る声で演説を始めた。 「諸君。忠勇なる臣下の諸君に告げる。 いよいよ明日、このニューカッスルの城に立てこもった我ら王軍に 反乱軍[レコン・キスタ]の総攻撃が行われる。 この無能な王に、諸君らはよく従い、よく戦ってくれた。 しかしながら、明日の戦いはこれはもう、戦いではない。 おそらく一方的な虐殺となるであろう。朕は忠勇な諸君らが、傷つき斃れるのを見るに忍びない。 ・・・したがって、朕は諸君らに暇を与える。 長年、よくぞこの王に付き従ってくれた。厚く礼を述べるぞ。 明日の朝、巡洋艦イーグル号が、女子供を乗せてここを離れる。 諸君らも、この間に乗り、この忌まわしき大陸を離れるがよい」 しかし、返ってきた返事は全て「我も戦いたい!」「耳が遠くなった」「冗談じゃない」等、様々な意味で勇ましいものばかりであった。 それを聞いた老王は、涙をぬぐい、勇ましく杖を掲げた。 「よかろう!しからば、この王に続くがよい!さて、諸君!今宵はよき日である! 重なりし月は、始祖からの祝福の調べである!よく飲み、食べ、踊り、楽しもうではないか!」 辺りは喧騒に包まれた。こんなときにやってきたトリステインからの客が珍しいようで、 王党派の貴族たちはかわるがわるやってきてワルドとセッコに酒や料理を勧め、思い出話や冗談を言うのだった。 「大使殿!その鳥は中身ではなく蜂蜜を塗った皮を食すのですぞ!」 「あっ、それはスープではありません! それ、そこのパンとソーセージをからめて食べてごらんなさい、うまくて、頬が落ちますぞ!」 適当にそれらの会話に相槌を打ちながら、勧められる料理を平らげていたセッコは、ふと思い出し口を開いた。 「ところでよお、ルイズはどこ行ったんだ?」 「何をしたのか知らんが、きみが怒らせたんじゃないのかね。まあ、僕が探してこよう」 「そうか。」 それにしても、こいつらは本当に何を考えているんだろうなあ。 ワルドは誇りがなんとか、と言っていたがさっぱり意味がわからなかった。 ウェールズのほうを見ると、王の傍から離れ普通に談笑していた。 「よお、楽しそうだなあ。ウェールズ・・・じゃなくて、王様・・・は違う・・・空軍大佐・・・でもなくて・・・」 「はは、ウェールズで問題ないよ」 ウェールズはにこやかに笑った。 「わかった。」 「君は確か、ラ・ヴァリエール嬢の使い魔だったね。 しかし、人が使い魔とは珍しい。トリステインは変わった国だな」 「やっぱ珍しいのかあ?オレとしては、部下は動物より人の方がいいんじゃねえかと思うけどなあ。」 やっぱり、オレがおかしいのか?それともここが変なのか? 「それはそうかもしれないね。ところで、何か聞きたいことでも?」 「んん・・・うーん・・・」 「あるんだろう。構わないから好きに言ってくれ」 「じゃあ聞くがよお、オメーらはなんで逃げねえんだ? おっさ・・・ワルドも、ルイズもオレにわかるように教えてくれねえ。」 ウェールズは、少し首を捻ったが、力強く答えた。 「・・・守るべきものがあるからだ。君にも一つぐらいはあるだろう。 我々300人は、その守るべきものが同じ、というだけなんだろうな」 「難しいなあ、オレの守るべき一番大事なものは、オレだ。次に主、かなあ? だから、そう言われてもピンとこねぇ。」 「君は、純粋だな。まあ、わかるときは来るさ」 「あんまりわかりたくねえな。」 「我々は、そんな生き方しかできないのさ。そうだ大使殿、一つだけアンリエッタに伝えておいて欲しいことがある」 「なんだ?」 「ウェールズは、勇敢に戦い、勇敢に死んでいったと。 明日の朝には、イーグル号がトリステインに出発するだろう。君たちもそれに乗って帰ればいい」 「・・・わかった。」 そう言うとウェールズは王の傍へと戻っていった。 うぐぐ、どいつもこいつも・・・自分より大事なものが、この世にあってたまるかよ。 なんだか不愉快だ、もう寝るかあ。 セッコが用意された客室に戻ろうとホールを出ると、ちょうどルイズを伴って戻ってきたワルドと鉢合わせた。 「おや、もう戻るのかね?」 「腹はいっぱいになったし、ウェールズにも挨拶したからなあ。 それと、ここを脱出するのは明日の朝らしいぜえ。来るときの船に乗っけてくれるってよ。」 「そのことなんだがね、きみに言っておかねばならぬことがある」 ワルドの声がいつもに増して低くなった。 「うあ?」 「明日、僕とルイズはここで結婚式を挙げる」 「意味わかんねえんだが。戻ってからじゃだめなのか?」 「ぜひとも、僕たちの婚姻の媒酌を、あの勇敢なウェールズ皇太子にお願いしたくなってね。 皇太子も、快く引き受けてくれた。決戦の前に、僕たちは式をあげる」 「ちょっと待て、どうやって帰るんだよ。帰りの船は朝一番だつってたぜえ?」 そのとき、ひどく憔悴した表情のルイズがセッコの肩を叩いた。 「大丈夫よ。ワルドのグリフォンで戻るわ。セッコは先に帰ってなさい」 こいつ大丈夫かなあ。 「それならいいけどよお、オメーまだあのこと怒ってんの?オレは・・・」 「その話は、あとから聞くわ。とりあえず一旦お別れね」 ルイズとワルドはパーティ会場の方に行ってしまった。 すげえ・・・怒ってるんだろうな、畜生。 結婚して丸くなってくれりゃいいなあ。・・・無理かなあ。 そんなどうでもいいことを考えつつ、セッコは部屋に戻り眠りについた。 To be continued…… 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/558.html
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 通称、ゼロのルイズ。 彼女は今、部屋の窓から二つの月を眺めていた。 彼女は今一人だった。使い魔もいない。 やっとの事で呼び出した、平民のはずの使い魔。 名を、イルーゾォ。 鏡の中の使い魔 月を眺めていて彼の事を思い出すのは、彼がよく月を眺めていたからだろう。 月が一つしかない異世界から来たと言い張った男。生意気な使い魔。 口論の末に己が使い魔と認めさせても、彼は服従しなかった。 そのくらい未熟な自分でもわかると、いらだち混じりに爪を噛む。 イルーゾォがルイズに仕えた理由は二つ。 死んだ筈のイルーゾォを、召喚という魔法を通じてか生き返らせた事。 そして、彼のチームが全滅したであろう事。 彼が主張する「自分は死んだ」などという戯言をルイズは信じていない。 ルイズの前に、使い魔の証たるルーンをその手に刻んで確固として存在しているのだ。 はたして誰が信じられようか。 また彼のチームの全滅。 本当に異世界から召喚されたというのなら、いかなる手段を持って召喚された世界の事を知りえたというのか。 本人は夢で見たという。 夢? そんな物の何が信じられるというのだ! だがイルーゾォは言うのだ。 「オレの仲間は、もう、誰もいない」と。 「リゾット……プロシュート……ギアッチョ……メローネ…… ホルマジオ……ペッシ……ソルベ……ジェラート……」 彼の仲間達を口に乗せる。彼から直接聞いたわけではない。 ただうなされるイルーゾォの、その呟かれた中に込められた思いにいつしか覚えてしまっていた。 「すまない」と。「生き残ってしまって、すまない」と…… ルイズにはわからない。 肉親であれ友達であれ、離れてしまう事でその身を引き裂くほどに思えるほどの、それほどまで強いの繋がりを感じた事はないから。 「イルーゾォ……」 正直、うらやましいと思う。 それほどまでに思える仲間がいたのだから。 だから―――― 「無事、帰ってきなさいよ。ガリア王の暗殺なんて、できなくてもいいんだから……」 きっと、彼の仲間達は、敗北の中でそれでも誰か一人でも生きていて欲しかったと願って、そして偶然イルーゾォが呼び出されて。 夢を見たのもきっと、いつまでも自分達に縛られて欲しくなくて。 帰るよりも、新天地での新しい生活に専念して欲しくて。 だから吹っ切れさせるために自分達の末路を見せたのではと、ルイズは思っている。 その考えを、ルイズはイルーゾォに告げていない。 あくまでルイズの妄想であり、例え真実そうだとして、それが仲間を失った彼にとってはたしてどれだけの慰めになるものか。 だからルイズは待つ。 いつか傷口から血が止まり、この世界で生きる事を決意してくれる事を。 それが彼をこの世界に召喚したご主人様の務めであり、傷つきながらもなお、自分のために戦ってくれた誇りある使い魔に報いることだと信じているから。 正直な所、ルイズは己の使い魔の強さを知らない。 彼がその力の片鱗を見せたのは三度。 青銅のギーシュ、土くれのフーケ、そして、アルビオン王国に反旗を翻した貴族達。 青銅のギーシュの時はメイドのシェスタを助けるため。 今なお服従せずとも、助けられた恩を返すために惰性的に使い魔をやっていた当時のイルーゾォは、それ故にルイズの怒りをかった。 そのお仕置きとして食事を抜かされたイルーゾォに救いの手を差し伸べたのがメイドのシェスタだった。 食事を恵んでもらったお礼として彼女の手伝いをしていたイルーゾォは、ギーシュに絡まれたシェスタを助けるために決闘を受ける。 それは愚かな事だ。愚かな、筈だった。 気負うこともなく、ただ配膳のために使っていた磨かれた銀のお盆ただ一つを武器として決闘に挑み――勝利した。 いや、はたしてそれを通常の決闘の枠に組み入れていいものか。 ルイズにはいまだ理解できない。あの決闘を見ていた全ての者がそうだろう。 ヴェストリ広場に現れたイルーゾォは、お盆を武器と主張して、それをいぶかしむギーシュにお盆を見せて、そしてギーシュは消えた。 永遠に。ルイズ達の前から。その存在も死体すらも残さず。まるで悪魔にさらわれたかのように。 それ以来、ルイズをゼロと呼ぶ者も、イルーゾォを平民と馬鹿にする者もいなくなった。 何をしたかわからぬが故に、メイジ達のイルーゾォに対する恐怖は膨れ上がるばかりであった。 そしてそれはフーケの消失によって決定的となる。 見事学園の宝物庫より破壊の杖を盗み出したフーケ。 スクウェアクラスのメイジによる固定化の魔法。それを突破した強大なメイジ。 討伐に名乗りを上げたルイズ、キュルケ、タバサの三名をただの一人で手玉に取った彼女もまた、イルーゾォにあっさりと消された。 巨大なゴーレムは何の意味も成さず、ただ無残な土山を後に残すのみ。 戦いともいえぬ戦い。 その実力に目をつけたのはトリステイン王国王女アンリエッタ。 アルビオンに潜入し、ウェールズ皇太子にあてた手紙を取り戻して欲しいとの願いは相手がルイズであったからだとは承知している。 だがしかし、ルイズが強力な使い魔を持っていなければ、流石に敵地へと侵入してこいなどとは言わなかったろう。 その願いを押しとどめたのはイルーゾォ。 「要は、その反乱軍がいなくなりゃあ済む事だろ」 その言葉は、反乱軍の中心人物たちの集団失踪にて現実となる。 イルーゾォのもたらしたアルビオン反乱軍壊滅という圧倒的な戦果に、新たに目をつけたのはタバサであった。 その素性はガリア王国王弟オルレアン公の娘、シャルロット・エレーヌ・オルレアンである。 メイジの軍勢を容易く葬ったイルーゾォの強さに賭け、その素性を明かし協力を懇願したのだ。 ガリア王国国王ジョゼフとその使い魔の暗殺の、協力を。 受けたのはルイズ。彼女にはもはや己が使い魔の実力を疑う余地などなかった。 ならば政治的影響力を高めるためにもタバサの頼みは受けて置いて損はないと考えたのだ。 (今頃はもう、王城の中かな……) イルーゾォの力の正体。知りたくないと言えば嘘になるが、それでもルイズは訊こうとは思わなかった。 その時がくれば、きっと自分から話してくれる。そんな予感があったから。 だから彼女がする事といえば、ただ使い魔の帰還を信じて待ち続ける事だけだった。 ガリア王ジョゼフの使い魔、「神の頭脳」ミョズニトニルンたるシェフィールドは不機嫌だった。 主たるジョゼフがここの所、他の者に目移りしているのが面白くないのだ。 「神の盾」ガンダールヴと思しきとある少女の使い魔。 だが彼はその力を発揮することなく、まったく別の未知の力でもってジョゼフの計画を打ち砕いている。 それに興味を引かれたか、トリステイン王国に潜入させている密偵にはできる限りその男の情報を集めるように厳命する始末。 実に、腹立たしい。 久しぶりに直接顔をあわせたにもかかわらず、碌にかまってももらえずいらいらは頂点に達しようとしていた。 化粧でも落として寝ようと鏡を覗き込み、戦慄した。 そこには奇妙な、いっそ可愛らしいと言ってもよさそうな髪型の男。 だがその瞳は常人の物ではない。 他者の死を貪り喰らい生きてきた悪鬼の物。 それを頭が認識したかしないかの刹那で、シェフィールドは懐に忍ばせていたマジックアイテムを取り出しその力を開放しようとして―― ゴトッ 気付けば落としていた。 「――ッ!!」 男はまだ動かないが、その隣には先ほどは気付かなかったもう一人の人物がいた。 シャルロット・エレーヌ・オルレアン。おそらくは、このガリアで最も己を恨んでいる人物。 思わぬ相手の登場に動揺を押さえ込みながらも、シェフィールドは別のマジックアイテムを取り出そうとし、取り出せない。 相手はまだ動かない。別のマジックアイテムも試してみる。取り出せない。 仕方なく落ちたマジックアイテムに手を伸ばす。動かない。まるで床の一部であるかのように。固定されたかのように。 そこまでいって、ようようシェフィールドは顔色を変えて逃げ出そうとした。 シャルロット達がいるのは部屋の奥の方。故にドアの方に向けて駆け出す。二人はまだ動かない。 特に邪魔されることもなくドアにたどり着けた事に疑問を感じながらも、ドアを空けて部屋から出ようとする。動かない。 二人の足音が近づく。動かない。 ドアに体当たりをする。ビクともしない。足音が近づく。動かない。 動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。 動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。 動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。 動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。 動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。 動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。 動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。 動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。 動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。 動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。 動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。 動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。 動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。 動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。 動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。 動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。 動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。動かない。 足音が背後で止まった。絶望の色すら滲ませ、シェフィールドが振り向く。 そこにはもう、「神の頭脳」ミョズニトニルンはなく、ただの無力な一人の女がいた。 「貴女には、色々と聞くことがある」 感情を見せずに、静かにタバサが語る。 「大丈夫。誰も助けには来ないから。貴女に聞く時間はいくらでもあるから、安心して」 唇の端だけを歪めて浮かべる笑みは、死刑宣告にも似て―――― 床にへたり込んだシェフィールドは、股間が生温かく濡れていくのをどこか他人事のように自覚した。 その後の事について、特に語るべきことはない。 タバサは母親を癒す事ができたし、ガリア王ジョゼフは使い魔と共に行方不明になった。 次の王位にはタバサが就くかと思われたが若さを理由にこれを辞退。 しかし周囲の熱意もあり数年後の即位で話は纏まり、それまでは彼女の母親が席を暖めることとなる。 無論つい先日まで病人だった人物に政治などできる筈もなくあくまでタバサが就くまでの代理ではあったが、悲劇の女王として民衆の支持はなかなかのものであったという。 またジョゼフが所持していた土のルビーと始祖の香炉はルイズの元に届けられ、彼女の物になった。 これはタバサからの正式な贈り物とされ、ガリア王国の貴族達からも文句の出しようがなかったという。 ルイズはそれらを元に更なる虚無の魔法に目覚め、世界最強の魔法使いとして後世に名を残すことになる。 ――だが、彼女を最強の魔法使いとしたのは彼女自身の能力ではなく、いかなるメイジすらも密かに始末する最強の使い魔の存在であると、全ての歴史書には記されたという。 鏡の中の使い魔―――完―――
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/976.html
影の中の使い魔-1 影の中の使い魔-2 影の中の使い魔-3 影の中の使い魔-4 影の中の使い魔-5 影の中の使い魔-6 影の中の使い魔-7 影の中の使い魔-8 影の中の使い魔-9 影の中の使い魔-10 影の中の使い魔-11 影の中の使い魔-12 影の中の使い魔-13 影の中の使い魔-14
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1017.html
儀式初日 今日はサモン・サーヴァントの儀式があった。あたしが呼び出したのは火トカゲ! 大きくて鮮やかな炎の尻尾を持ってるから、おそらくは火竜山脈のサラマンダーに 違いないわ!!明日ルイズに自慢してやろっと。あの子絶対に悔しがるわ。 あたしのライバルのルイズは変な平民を呼び出していた。 呼び出せただけでも運が良いと思う。失敗すると思ってたのにザンネン。 でも、どうしてだろう?ルイズの呼び出した平民を見てると嫌な気分になる。 儀式より一日目 今日は色々な事があった。 ルイズが皆が止めてるのに錬金をして教室を爆発させた。相変わらずの威力ね。 ミセス・シュヴルーズが気絶して授業が無くなったのは良かったわ。そこはルイズに感謝しなくっちゃ。 罰の教室の掃除が終わってから、あの子ったら随分落ち込んでた。少し心配だわ。 それから何があったのか知らないけど、ルイズの使い魔がギーシュに土下座してた。 凄く卑屈になってたけど、その姿を見てあたしはなんだか不安になった。 儀式より二日目 ギーシュが死体で発見された。身体を解体されて一つ一つ丁寧に並べられてたらしい。 見つけたのはモンモランシー。いつまで経っても姿を見せないギーシュが心配になって 部屋まで見に行って、そこで見つけてしまった。モンモランシーの取り乱し様は見ていて 痛々しかった。神様はなんて残酷なのでしょう。 先生たちは犯人探しに駆り出されてた。王宮からも使者が来たみたい。 ルイズは昨日の失敗を引きずってるのか、ずっと落ち込んでた。張り合いがないわね。 せめてあの子が元気なら、あたしの気分も良かったのに。 儀式より三日目 今日は授業が休みだからモンモランシーのお見舞いに行った。ギーシュの使い魔が部屋の外で なかに入りたそうにしていた。あたしも入りたかったけど、モンモランシーに拒絶された。 扉越しに泣き声が聞こえてきた。あたしにはどうしようもないのが、ちょっと悲しい。 ルイズも元気がない。寝てないのか眼の下にクマができてた。 からかっても生返事、ルイズらしくない。 儀式より四日目 今日もモンモランシーのお見舞いに行ってきた。今日は部屋に入れてくれたから一緒にお喋りができたわ。 ギーシュの使い魔はずっとモンモランシーを励ましてたみたい。 自分も悲しい筈なのにギーシュの使い魔らしいわね。 ルイズは相変わらず元気がない。食事も殆ど食べてないみたい。少し心配だわ。 タバサがルイズの使い魔は医者だと言っていた。ちょっと信じられない。人は見かけによらないものだわ。 儀式より五日目 モンモランシーがギーシュの使い魔を連れて部屋から出てきた。まだ辛そうだったけど、もう大丈夫よね?。 ギーシュの使い魔をモンモランシーは引き取るつもりらしい。嬉しそうに鼻をヒクヒクさせてた。 御主人様に変わってちゃんとモンモランシーを守るのよ。 でも、モンモランシーの代わりにルイズが部屋から出てこない。呼びかけても返事なし。 いつもみたいに入ろうと思ったけど、なんだかできなかった。 儀式より六日目 相変わらずルイズは出てこない。部屋の前に置いた食事は無くなってたから、ちゃんと食べてはいるみたい。 ルイズの使い魔は医務室で働く事になったらしい。主人をほっといて何をしてるんだか。 そう言えばタバサの様子が少しおかしかった。ルイズの使い魔のことをチラチラ見てたけど、もしかして あんなのが好みなのかしら?あたしに言ってくれれば、もっとマシなのを幾らでも紹介してあげるのに。 儀式より七日目 朝早くにタバサがルイズの使い魔を連れて何処かに行ってしまった。もしかしてデート?! あの子も奥手そうな顔してヤル事が早いわ。あたしも負けてられないわね! でも、ルイズの事が心配だから暫く恋はお預けね。あ~あ、早くルイズが元気にならないかな。 儀式より八日目 タバサがルイズの使い魔と戻ってきた。何をしてたのか聞いても教えてくれなかったけど、嬉しそうな顔だった。 あたしには判るわ!きっと愛の告白をして受け入れてもらったのね!!タバサ!あたしも応援するわ!!! でも、本当にあんな変なので良いのかしら?ひょっとして騙されてるんじゃ?。 まさかね、あの子はそうそう騙される様な子じゃないし。 ルイズの様子が心配で部屋に押し入った。あの子ったらすっごくビックリして怒ってた。 良いじゃない扉の一つや二つ、あたしが心配してわざわざ様子を見に行ってあげたんだから。 でも、ルイズが元気になって本当に良かった。 儀式より九日目 ルイズが漸く部屋から出てきた。まったく、心配かけさせないで欲しいわ。 モンモランシーも大丈夫みたいだし、ギーシュの事は残念だけど、元通りの日常が戻ってきて良かった。 大切な物は無くしてから判るって誰かが言ってたけど、今は本当にそう思う。でもみんな元通り何も無くしてないわ。 明日もみんなが幸せに暮らせますように。 儀式より十日目 今日起きたことは生涯忘れないだろう。 朝、またルイズが寝坊したと思って部屋を訪ねたら、首を吊って死んでいた。 モンモランシーは、ギーシュの部屋で、ギーシュの使い魔と一緒に、毒を飲んで死んでいた。 なぜ?どうして?昨日はみんな笑ってたのにどうしてなの? ルイズの使い魔が笑っていたのを見た。まさか、アイツが? 儀式より十一日目 フレイムにヤツを監視をさせていたら、一人、医務室で書類の様な物を見て笑っていた。 すごく気になる。様子を見て調べてみよう。 儀式より十二日目 タバサがあたしが止めるのも聞かずに、またヤツと出かけてしまった。 でも、これはチャンスだと思ったあたしは医務室を探して、ヤツが見ていたものを見つけた。 内容は言いたくない。最悪の代物だった。 タバサ!お願い!!無事に戻ってきて!!! 儀式より十三日目 タバサはまだ戻ってこない。神様お願いです。どうかタバサを守ってください。 儀式より十四日目 ヤツが何食わぬ顔をして一人で戻ってきた。 タバサは死んだ。母親にメッタ刺しにされて死んでしまった。 今日、あたしはヤツを殺す。みんなの仇を取ってやるわ!! 儀式より?日目 とんでもないヤツだった。フレイムが守ってくれなかったら、あたしも死んでいた。 ヤツとの戦いで身体がボロボロになった。自慢の髪も、胸も、脚も奪われた。 これじゃ男を誘惑できないじゃない。でも、何とか殺せたわ。 あたしももうすぐ死ぬけど、ヤツを丸焼きにしてやったからそれで満足。 これでみんなのところにむねをはっていける るいずたばさもんもらんしぎーしゅあたしもすぐにいくからね。
https://w.atwiki.jp/gundamzero/pages/27.html
第三部『NEUE ZIEL(新しき理想)』 その日…もとい、ここ数日ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは非常に不機嫌だった。 理由は、使い魔の不在にある。 朝食が終わってから一時間ぐらいすると出て行き、夜頃やっと帰ってくるのである。 それだけなら、当り散らすとこだが、用件がウェールズにあるとなると何も言えない分、さらに機嫌が悪くなっている。 おまけに、アンリエッタとゲルマニア皇帝の婚姻に際して、詔を作れと始祖の祈祷書と共に言い渡されたのだが 詩人的才能が枯渇しているらしく、全く湧き出てこない。 ベッドの上でう゛~と唸っても、使い魔は居ないし、相談できそうな相手も居ない為、余計だ。 で、その不機嫌の原因を作り出している元凶だが、部屋の中でウェールズとマザリーニを伴い難しい顔をしていた。 「…率直に聞かせて欲しい。君から見て、どういう目的があると思う?」 「ふむ…たかが使節訪問に一隻しか無い艦隊旗艦を持ち出すという事が考えられんな」 主人と同じように少し唸りつつ、紅茶を啜りながら答えるが場の空気は重い。 なお、宇宙攻撃軍はドズル中将がドズル・ブレンドなるオリジナルコーヒーを作り出した事もあり大半がコーヒー党であるが、無いので紅茶にしている。 味は良いので特に問題は無い。 普段は、今後どうするかなどの話し合い等で、こういう雰囲気ではないが今日は別だ。 アルビオンから大使が送られてくるというのだが、それに伴い艦隊が動員されるからだ。 なお、ウェールズに対する言葉遣いが変わっているのは、ウェールズ自身がもう王族ではないからいい、と言ってきたからという事。 「威圧ではありませんか?アルビオンの強大な艦隊戦力を見せ付けるという」 「一理あるがな…私が思うに、連中は使節と偽り実戦部隊を導入し、こちらと一戦交える腹ではないか?」 「馬鹿な…!?そんな破廉恥な行為を行うなど…!絶対にありえん!」 思わず立ち上がったマザリーニを一瞥したが、構わずに続ける。 「艦隊という物は動員するだけで物資を浪費する。先頃まで内乱があり、国内が纏まっていない時期に使節というだけで艦隊旗艦を派遣するとは思えんよ」 ジオン公国軍でいうならルナツーの哨戒にドロス級を動因するような物だ。 確かに、200メートル級戦艦なぞ威圧にはもってこいだが、燃費が悪すぎる。 「まさか、そんな…いや、彼らも貴族だ…そんな事は…ありえん」 多少狼狽しつつあるマザリーニを見て少しばかり辟易した。 有能だとは思うが、緊急の有事には役に立たないタイプだと判断したが 他に使えそうな人材と言えるべき人材がマザリーニしか居ないので少し順を追って説明する事にした。 「落ち着きたまえ枢機卿。とにかく、そう思う理由を聞いてからでも遅くはない」 「うむ…確か、奴らの戦略目的は『統一』と『聖地奪還』であったな」 「ああ、その通りだ」 「現在、他に存続する国家は、隣国のゲルマニア、中立を標榜しているガリア、宗教国家のロマリア そのどの国も、強大な航空戦力を持つアルビオンには単独では太刀打ちできない。そこで、ゲルマニアとの同盟があるわけだが…」 そこまで言って二人を見たが、異論は無さそうなのでそのまま続ける。 「戦略的な目的が『統一』であるならば、対抗戦力となり得る国同士の同盟を傍観しているだけというのも思えなくてな。 ギレン総帥やデラーズ閣下ならば、戦力を集結させられる前に各個撃破の対象にするだろうな。 無論、戦力が集中した所を纏めて叩くという手もあるが…アルビオンと二国の間にそれ程の戦力差はあるまい」 公国軍ですら二重三重に張り巡らせた情報網によって、限界ギリギリまでMSの優位性を隠しルウムで連邦軍を打ち破った。 それでも、国力が疲弊し『ジオンに兵無し』と言われた程である。 戦力差が無くなれば持久戦になり、先に根を上げるのは補給ルートを封鎖されやすいアルビオンだろう。 「無論、同盟を締結したとはいえ、ゲルマニアが増援兵力を送るのに時間は掛かるだろうが それなりの部隊を送るとなると時間もかかる上に、こちらに察知され防衛体制を整えられてしまうしな」 となれば、使節という目的で精鋭部隊を送り込め、油断してくれているこの機会が好機というところだ。 「ある程度国内へ進んだ所で奇襲攻撃を仕掛け、そのまま制圧部隊を送り込む。…というのが考えられるが、どうだ?」 「…確かにそうだ。奴らなら、そのぐらいはやりかねない」 「で、ではゲルマニアに増援要請を…」 ウェールズが肯定すると共に、ようやく事態が飲み込めたマザリーニだが、まだ話は途中だ。 「あくまで仮定にすぎん。…それで動いてくれるような相手でもなかろうしな」 ゲルマニアは有力貴族が集まった連合体のような物で皇帝の力は言うほど強くは無いと聞いた。 金で地位が買えるという拝金主義的…とまではいかないだろうが、それに近い物風潮がある国が仮定だけで動くはずは無い。 フォン・ブラウンのアナハイムと考えれば分かりやすいだろうか。 二面外交を行い常に有利な方に付こうとするかもしれないという事も想定しておかねばならない。 そんな戦力をアテにして作戦を組み立てれば、間違いなく破綻する。 なら、最初から数に入れない方が遥かにマシだ。 (さて…と、デラーズ閣下なら、どうなされるだろうかな) そう思うのも無理は無い。 ガトー自身はMS隊の総指揮を取っていただけの事はあり戦術家という側面を持ち合わせているが、戦略は専門外である。 星の屑にしても、デラーズという傑出した戦略家が居てこそ初めて成功した作戦だ。 無論、部隊の錬度が連邦より遥かに高かったというのもあるが、それだけでは圧倒的な物量を相手にできなかったはずだ。 「我が軍の主力は旗艦『メルカトール』を含めて旧式艦が多く…緊急時に集められる陸軍の数は2000程で… 報告によると、訪れるアルビオン艦隊は、旗艦の他に戦列艦だけでも十数隻、予想される地上戦力は3000程で竜騎兵も入れますと…」 「僕が言うのも何だが、アルビオンの竜騎兵は精鋭揃いだ」 「鎧袖一触とはこの事か…」 戦力を聞いて頭痛がしてきた。数、質、錬度共に劣っている。 しかし、どうにも選択肢が少なすぎる。 こちらから先制攻撃を掛けるわけにもいかず、敵の攻撃に対して反撃するという道しか残されていないのだ。 しかも、あくまで仮定であり、可能性が高いものの確実にあるというわけではないし、その証拠も無い。 満足な防衛体制を整えられるかどうかはマザリーニに任せるしかないが 鳥の骨と言われているだけあって、結構な数の貴族から嫌われているのである。 最悪、緊急時に召集できるだけの戦力で対応せねばならないが それで最初から戦うつもりで来た敵とやり合えるか、と問われれば『無理だ』としか答えようが無い。 「とにかく、戦力の分散を避け、対策と準備は怠らない事だ。悪いが、今のこの国の有様では一度侵攻されれば抗うだけの力はあるまい」 ここ数日、王宮に出入りする貴族を観察していたが、どれもこれもジャブローの連邦高官のような目をしている。 事なかれ主義。己の保身しか考えていないような輩が大半を占めていると見た。 占領されれば、そのような者は真っ先に懐柔され、反抗しようとする者達を率先して弾圧するという事は十分考えられる。 アルビオン側としても、その手を取れば憎悪の対象は懐柔された側に向けられるので恐らくそうなるだろう。 唯一、付け入る隙があるとすれば、こちらが攻撃に感付いたという事だ。 偽装敗走で敵が油断した所で、敵中枢に攻撃を仕掛けるという手があるが、奇襲を仕掛ける戦力が集まるかどうかはマザリーニの手腕次第だ。 とりあえず、まだ日はある。 その場は、マザリーニがアンリエッタにそれとなく知らせておくという事で纏まった。 正直な所、腐っているとしか形容のしようの無いこの国に、ここまで関わっているのは他ならぬウェールズの存在が大きい。 死のうとしていた所を無理矢理連れ出し、生かしたのだから付き合う責任がある。 かつての自分に対するデラーズのようなところだ。 そして、そのウェールズがトリステインを救おうとするのなら、同じように尽力する事に決めたし 何より、ウェールズと話していて分かったのだが、地球方面軍司令であったガルマ・ザビ大佐にどことなく似ているのだ。 連邦の白い悪魔を擁する木馬部隊と交戦し戦死した彼だったが、国民からは勿論、軍内でも人気は高かった。 まして、溺愛していると言っても過言では無いドズル中将の部下だったこの男も例外ではなく、ガルマに対しては好意を抱いていた。 言うなれば、ウェールズがどこまでやれるかというのを見てみたくなったのである。 もっとも、これを乗り切らなければ先が無いのだが。 なお、ウェールズは、客人という事で素性隠し王宮内に留まっているが ガトーはウェールズとアンリエッタによりマザリーニの理解は得ているが、他から見れば平民なので何度も正面切って王宮に入るというのは要らぬ疑念を呼ぶ。 したがって、行きは搬入される食材に紛れ、帰りはこの前ウェルダンデが掘った穴から出るという、プチ・スニーキング・ミッションである。 ダンボール箱があれば被っている。 道中も、2、3箇所回っているため馬でも時間が普通よりかかるが、普段から狭いMSの中で時を刻んでいただけあり、苦にはならない。 むしろ、何時もやっているトレーニング代わりだ。 いい汗かいて学院に戻ると、後ろから声をかけられた。 余談だが、こちらに来てから頭の上がらない相手が一人増えている。 その正体は、今後ろから声をかけてきてる少女だ。 「む…シエスタか。どうした」 「最近、何時もこの時間に戻ってくるから待ってたんですよ。その、お腹すいているんじゃないかと思ってあ、…いえ、済ませてるならいいんです」 とまぁ、召喚当初から、このように食料方面や家事方面で色々と支援して貰っているので、年下と言えど流石に頭が上がらないのである。 ただ、その目を何処かで見たような気はしていたが 黒髪、黒目という、かつての宿敵を彷彿とさせる顔立ちだったので、まぁそういう事だろうと、とりあえず納得はしている。 「…そうだな。頼む」 「良かった。じゃあ、厨房に来てくださいな」 馬飛ばしてきただけに、丁度いい頃合でもあったし、何より断ったりしたらもの凄く落ち込まれそうなオーラを出していたので受ける事にした。 普段、部下を持つ立場だけであっただけに、こういう細かいとこには気付いたりするのだが、こんな所で役に立つとは思わなかった。 「旨い」 まず、出た感想はそれだ。 「本当ですか。良かった」 「後で厨房の皆に礼を言っておかねばならんな」 普段の生徒、教師及び自分達の分まで作らねばならないのに、少々ズレた時間にも関わらず用意してくれたという事で出た言葉だが 後ろから別の人物の声が飛んできた。 「ああ、それな。シエスタが作ったんだ。お前さんが最近、毎日出て行くからって頼んできてな」 ここの料理長のマルトーだ。 軍人と料理人という違いはあるが、己の職務に関して信念を以って立ち働くという姿には共感を覚えており 最初こそちとアレだったが、前のギーシュやド・ロレーヌの件などで、マルトー以下厨房の面々とはかなり親しくなっている。 「そうか…見事」 軽い笑みを浮かべてそう言ったが、無論、世辞ではなく本心からだ。 『世辞はいい。アースノイドじゃあるまいし』と言ったぐらいである。不味ければ遠慮なく不味いと言っているはずだ。 その言葉に顔を赤くして手を振っていたシエスタだが、少しすると顔の前に銀のお盆をやって少し言いにくそうに話し始めた。 「あ、あの、今だから言いますけど、ガトーさんを最初に見た時、少し怖いなーって思ってたんですよ」 そう言って、気付いたようにさらに激しく手を振りながら、今はそんな事はないです!と言ったが、分からんでもないとは思う。 「軍人ってのはろくでもないのが多いからな。手前の出世のために簡単に人を踏み付けたりするのが殆どだ」 ガトーが属していた宇宙攻撃軍は、ドズル中将の訓令が非常によく行き届いている…というより、ドズル中将のあの顔で、そう言われればそうするしかない。 そのため、軍律は旧公国軍でも最も高かった。 デラーズ・フリートにしてもそうだ。 だが、シーマ海兵隊のような戦後に海賊行為をしていた部隊も存在する事は確かだ。 戦後でなくとも、軍隊という大規模な組織である以上、一般人に対して略奪などの犯罪を犯す者は必ず居る。 もっとも、軍令で人を殺す事と、個人で人を殺す事に何処に違いがあるのかと問われれば答えようが無いのも事実である。 「すまん…!」 だから、侘びの言葉が出た。 「お前さんが謝ってどうする。グラモンの小僧を修正した時なんざ、俺はこいつは違うと思ったさ!」 あの偉そうだった小僧が、今じゃ大分態度が良くなったもんよ。と付け加えてきたが、ガトーに言わせればまだまだだ。 個人的に、ジオン士官学校に入学して一から学んで欲しいところだが、まぁそれは無理というものだろう。 世界が違うというのもあるが、敗戦により士官学校も解体されているからだ。 「迂闊に褒めんようにな。あれは調子に乗りやすい」 もうすっかり部下扱いである。実際、302哨戒中隊に補充要員として送られてきた学徒兵も、ギーシュと同じぐらいの年齢だったため扱い方は心得ている。 とりあえず、一段落付いたのだが、この男的には、このままというのは非常によろしくない。 「何か礼をせねばならんな。私に出来る事であれば言ってくれ。手を貸そう」 「そんな、こんな事ぐらいで…」 「ホントお前さんは義理堅いやつだな。ますます気に入ったぞ俺は!」 何故だか分からんが、こっちに来てから妙に厨房が馴染む。 それこそ、MSに搭乗しているような感覚である。 一回死にかけたおかげで前世か何かの記憶の影響が出ているのかもしれない。だとしたら多分職業は『ただのコック』だ。 「そうだ。それじゃあガトーさんの国の事を聞かせて下さいな」 「おお、そいつは俺も聞きてぇな」 興味津々といった具合にシエスタが覗き込むように聞いて、少し間を置いてそれに答えたが…色々と凄い事になった。 「私の故国か…そう呼べる物は三年前に潰えてしまってな」 少し感慨深げにそう言ったが、正確にはそうではない。サイド3は依然として健在だ。 ただし、ジオン共和国としてであるが。 同じジオンの名を冠するとは言え、ジオン共和国とジオン公国は全くの別物だ。 連邦に従属する形の自治なぞ形骸もいいところである。 だからこそ、多くの公国軍の戦士達が終戦後もジオン公国再興のために戦ったのだ。 そういう意味では、ジオン公国という国家は潰えたと言ってもいい。 だが、国家はどうあれ、宇宙市民の独立というジオンの理想は受け継がれている。 ジオン公国からデラーズ・フリート。デラーズ・フリートからアクシズにと。そう受け継がれただけでも十分だ。 ふと、視線を前にやると、何故か知らんがマルトーとシエスタが泣いている。 マルトーに至っては漢泣きというやつだ。 「…急にどうした?」 「馬鹿野郎!祖国を失っても誇りを持ち続ける軍人!これが泣かずにいられるか!」 「ガトーさぁ~~ん。わらし達が居ますから、辛くなっだらいつでも来てくらはい~~」 漢泣きしながら今にも抱きついてきそうなマルトーと、同じく泣きながら腕に抱きついてきたシエスタを見て もしや、何か可哀想な人として見られているのではないかと疑念が沸いたが どうやら、心の底から本気で泣いているようなので、特に気にしないでおく事に決めたが、二人を見ていると何やら勘違いをしている事に気付く。 何かこう、最後の生き残りというように受け取られてしまったらしい。 アルビオンでの件もあり、そういう価値観の違いからなのだろうと思ったので一応の訂正はしておいたが、やはりカリウスらのようにはいかない。 今まで軍隊組織にドップリと浸かっていただけに少しばかり戸惑いがある。 要は、民間人とこういう場で対する事にそれほど慣れていないわけだ。さらに言うならこういうタイプと接するのは本邦初だったりする。 ここ4年の生活場所が月での潜伏期間を除けば、宇宙要塞『ソロモン』、デラーズ・フリート拠点『茨の園』という環境だったので無理も無いのだが。 多少は落ち着いたようだが、やはり、まだ何か極まっているのか、依然としてマルトーは漢泣き状態であった。 時間が時間なので、ルイズの部屋に戻ろうとしたが 正直言うと、ジオン軍人として、16の少女と同室ってのはどうよと思わんでもない。 どこぞの仮面つけた大佐さんなら喜びそうだが、そういう趣味は無い。 まぁ使い魔だから。と言われればそれまでである。 価値観の違いというものか。郷に入れば郷に従え。という古い諺も知っているだけに、馴染もうとしているのだが こればかりは、多少抵抗が無いわけでもない。 そんな事を思いながら扉に手をかけドアを開けると…目に入ってきたものは白い塊だった。 ボフン。という間の抜けた音が響いたが、そこは現役のMS乗り。 飛来物に対する反射神経は常人のそれよりも遥かに高い。 顔に手をやって防ぎ、その白い物の正体を見たが、ルイズ愛用の枕である。 「ぬう…手荒い歓迎だな」 枕を拾いながら、それが飛んできた方向を見たが、ベッドの上で機嫌悪そうにしていらっしゃる桃色を見たッ! 「どこ行ってたのよ」 口調が明らかに拙い。 詰み将棋の如く、答え方を間違えればルイズ火山大噴火に御座います。というやつだろう。 だが、それでも百戦錬磨の兵である。 これしきのプレッシャーなぞドズル中将に比べれば形骸もいいところだ。 あえて言おう、カスであると! 「言ったはずだ。用があるとな」 ひるみもせずありのまま答えたが、やはりというべきか、ますます機嫌が悪くなったようである。 「分かってるわよ!わたしが言ってるのは、ご主人様をほったらかしにして内緒で何やってるのかって事!」 ひどく単純な理由だったが、それだけにガトーの理解も早い。 そういう事か。と思ったが、事が事だけにそのまま言うわけにもいかない。 何せまだ確定した情報というわけでもないだけに、悪戯に不安を煽らんでもよかろう、と判断した。 「確か、アルブレヒト三世だったか。その件でな」 嘘は言ってはいない。アルビオンの艦隊が訪れるという話を聞く前には、婚姻の件の話もしていた。 「納得したか?」 う゛~と唸るルイズを後ろ目に軍服の詰襟を外しながら、椅子兼寝床に座り一息付く。 …が、言われた方はまだ機嫌悪そうだ。 ルイズも、壊滅的に空気が読めないわけではない。 人より読めないが、この場合はいくらなんでも言わんとしている意味は分かる。 ゲルマニアの皇帝の名前を出したからには、婚姻の件で出向いているのだろうと理解した。 つまり、アンリエッタとウェールズの事だ。 そりゃあ、死を覚悟したウェールズを半ば無理矢理トリステインまで亡命させてきたものの、その直後に婚姻である。 恋人同士だと知っているだけに、望んでいない婚姻がどれだけ辛いものかという事ぐらいは分かるのだ。 まぁ、それはそれ。 いくらそうでも、ルイズにとって使い魔が主人を放置して、他所に行くなど認められない事である。 でも、アンリエッタに関わっている事なので、直接文句たれる事もできない。 もっとも、この威圧感満載の軍人に普段ずけずけと遠慮なしに命令を言えるルイズも相当なタマではあるが。 しばらくすると諦めたようで大人しくなったが、唐突に口を開いた。 「…ねぇ、それ貸して」 それと言われたが、手にしているのは一つしかない。 普段は持ち歩いているが、さすがにここにいる時は外に出している物。 超高級品であるブルーダイヤモンドの事だ。 普段は特に意識していないが、この世界においては国宝クラスのブツである。 宝石としてだけなら、ルイズが貰った水のルビー以上の物だ。 貸すだけで機嫌が直るなら安いものだとして手渡した。 「これって凄く綺麗よね。蒼いダイヤなんて初めて見たけど、どうしたのよ?これ」 ベッドに寝ながら手の平でダイヤを弄んでいるルイズだったが、そう訊いてきた。 貴族だから、宝石なぞ珍しい物でもなかろうと思ったが、即座に思い直す。 「お前でも見るのは初めてか。…宇宙では珍しいからな」 宝石は基本的に地球原産である。 ソロモンやア・バオア・クーなど、元々鉱物資源採集用として運ばれてきた小惑星では、工業用の金属は豊富に取れたが、宝石などは滅多に出ない。 特にダイヤモンドは、隕石痕などの場所からしか採掘されない物質だ。 その事から、月面のクレーター痕にも存在するのではないかと言われていたが 今の所はクレーター痕を利用したフォン・ブラウンやグラナダから、そんな物が採れたなどという話は聞かない。 そもそも、宝石を手に入れられるような富裕層は地球に居残っているので 精々工業用に使われる人工宝石ぐらいで、宝飾品を目的とした物は宇宙に出回る事はあまり無かった。 特に公国の前身となるジオン共和国はUC.50年代の頃に連邦による経済制裁を受けているため 宝石は元より食料すら確保し難い状況に陥っていた事があるだけに余計顕著だ。 ジオン・ズム・ダイクンの元、月の企業体やコロニーの商工業組織からの協力を得ることで何とか乗り切ったものの これらの連邦の行動が、サイド3が他のサイドより連邦に対しての敵対心が大きい原因である。 「前にも言ったと思うが、ある方から譲り受けた物だ。…武人の鑑とも言える人で返しきれぬ恩義がある」 あのHLVが無ければ、奪取した02Aを宇宙へ運び出す事はできずに、星の屑は第一段階も達成できずに頓挫するはずだった。 作戦概要すら言う事もできなかったが、『作戦』という言葉一つで基地のMS全てを犠牲にして送り出してくれたのである。 言うなれば、星の屑が最終段階まで到達できたのはキンバライド基地のおかげであると言っても過言ではないのだ。 それを聞いてルイズが押し黙る。 今のガトーの口調からして、その恩義は相当な物だと判断できるからだ。 「…元の場所に帰りたいの?」 ルイズもいい加減ガトーの性格は掴んでいる。 義理堅いというか、もう行動理念のほとんどがそれで出来ていると。 だから、勝手に呼び出した自分を放って何処かに行くのではないかと思ったからそう訊いた。 「さて…どうだろうかな」 対してガトーであるが、その恩義のあるノイエン・ビッター少将はHLVを守るために戦死しているのである。 何より、志を無駄にしないためにも星の屑は成功させねばならなかったわけで 気になると言えば、今後、星の屑により宇宙の情勢がどう動くかという事であるため、明確には答えなかった。 第一、ルイズに対しても(半ば理解せぬ内にだが)命を拾われたという義があるので、今ここで答える事ではない。 この事において彼とタメを張れる人間は同僚でもあった白狼ことマツナガ大尉ぐらいなものであろう。 ちなみに、大抵の人が信じられないであろうが、アナベル・ガトーは25である。 一年戦争の時は22なわけで、一体どんなもん食ったらあの年齢でああいう風に育つのか甚だ疑問だ。 当然、ルイズ達にそう話した時もかなり驚かれた。 明確に答えなかったせいか、多少安堵したようで、しばらく黙っていると、寝息が聞こえてきた。 あろう事かブルーダイヤモンドを両手で握り締めたままだ。 価値を考えれば非常に罰当たりである。 「まったく…小動物でも飼い始めた気分だな」 言いながらルイズに毛布を掛ける。 士官学校時代でも、ここまで手の掛かる後輩は居なかったはずだ。 そういう意味では新鮮味のある体験なのだが、対応し辛いというのが本音だろう。 さて問題のダイヤだが、取れそうに無い。 無理に取っても良かったが、緩んだ表情で寝ているルイズを見てその気は失せた。 少なくとも朝になれば向こうから返してくる。 別段、起こすような真似はしなくてもいい。 「良い夢をな」 現実世界で『悪夢』を振り撒いていただけにそう口に出たのかもしれないが、事実として情勢は芳しくない。 近い将来、ここが戦火に包まれるというのは十二分に考えられるのだ。 なら、せめて夢の間だけでも悪夢なぞ見ないで済むに越したことは無い。 「私の杞憂であればいいのだが…」 少々弱気になりがちだが、切り替えは早い。 成すべき事を成す。 今も昔もそれは変わらない。 そう考えると、自身も夢を見るべく目を閉じた。 この先トリステインが見る夢が悪夢か否かは、まだ誰にも分からない。 翌日。 「ああ、僕のモンモランシー…君はいつだって美しいが、今日の君は一段と美しいよ」 行初めから、クベさん家のマ坊ちゃまでも言わないような仰々しい台詞を吐き出しているのは、ご存知ギーシュ。 そして、相手は金髪縦ロール。どこのディアナ様だと言わんばかりのモンモランシーだ。 この前、一年のケティに浮気され、思いっきりワインをブッ掛けた彼女であったが ここ最近、少しばかりマシになったのでヨリを戻しつつあった。 ギーシュ曰く『少佐に影響されたのかな』らしいが 先にあるように、アナベル・ガトーは世辞など一切言ったりはしない。 モンモランシーから見ても、ガトーとギーシュでは、その辺り雲泥の差があるので話半分だが 浮気性が治りつつあるというのは悪くない事だ。 トリスティン貴族の例に漏れず、高慢と自尊心の塊だけあって褒められるのは嫌いではない。むしろ、もっと褒めろと言いたげである。 食後のデザートとテーブルを介して、対面に座り、口説く側、口説かれる側と別れているが 唐突に、ギーシュの言葉が自分ではなく、他に向けられている事に気付いた。 制服っちゃあ制服であるが、ジオン公国軍少佐相当が着用する軍服に身を包んでいる、ガトーである。 まぁ、他から見て明らかに浮いているのであるが、本人は気にしていないし 何より、他に何があるのかと言われれば誰も答えようが無い。 「何か用か?」 「少し、話があるんですが、構いませんか?」 そう言ってガトーの方に顔を向けたギーシュだが、その目は貧しい少年が、展示されているトランペットを見るかのようなそれだ。 公国軍MSトップエースパイロットであるからには、そういう目で見られる事に関しては慣れきっているのだが 傍から見ているモンモランシーは、少しばかり不安になっている。 (…ギーシュったら、あんな目して…わたしにも見せた事ないわよ ……まさか!いやでも…まさかよね……ああ、でも最近他所の女の子に色目使ったりしないし…) なにやら、薔薇色の想像が湧き上がっているようであったが、無論二人は知った事ではないから話は続く。 「何だ?」 漢気溢れる声でギーシュに返すガトーだったが、ギーシュは何故かモンモランシーの方をチラ見しながら答える。 「ここじゃ少し…向こうで話したいんですがいいですか?」 「ふむ…まぁよかろう」 「それじゃあ、少し行ってくるから待っておくれ、僕のモンモランシー」 立ち上がってガトーに付いていくギーシュがモンモランシーにそう言ったが、言われた方は少し青褪めている。 (訊かれると拙い事なの!?何!?やっぱりそうなの!?) 接触したコロニーの内の一つである、宇宙の深遠へと消えていった『アイランド・ブレイド』の如くズレた思考をしていたが 何やら意を決した様子握り拳を作り立ち上がると、呟く。 「…追わなきゃ」 そうして、モンモランシーが二人を見つけたのはヴェストリの広場である。 火の塔と風の塔に挟まれ、日当たりも悪いので生徒も居らず、密談にはうってつけの場所だ。 茂みに隠れながら、二人に近付いたが、もう話は終わったようだ。 「ありがとうございます!参考になりました」 「あまり、助けになったとは思えんのだがな」 話の内容だが、何の事は無い。 砕けた言い方をするとギーシュの恋愛相談である。 無論ガトーとて、他人にアドバイスできる程そっちの戦歴は豊かではない。 むしろ、ギーシュがアドバイスするぐらいなのだが、この前ワインを頭からブチ撒けられた手前もあるのだろう。 どうも何か、ギーシュから完璧超人のように見られているが、そんな事は無い。 得手もあれば不得手もある人間である。 従って、まずはその目移りやすい癖を直せ。というごく一般的な回答だったのだが とりあえず、薔薇は云々と返してきたので『それは一人前の男の台詞だ!』という台詞と共に軽く修正しておいた。 どうも、一度痛い目見ないと分からないタイプであるようで、修正されると何かに気付いたような目で、先にあげた礼を述べてきたというわけだ。 「そう言えば、少佐って、召喚される前は何ていう所から来たんですか?」 唐突に、そう訊かれた。 はてさて、返答に少し詰まる。 宇宙と言っても、分からんだろうし、サイド3『ムンゾ』は少し違う。 したがって、最後に足を踏み入れた場所で答える事にしたのだが 「茨の園という基地だ」 そう言った瞬間、茂みから何やら音がした。 「む!?…猫か」 目を細めて辺りを見渡したが、帰ってきたのは猫の鳴き声だったので、視線を戻した。 別段聞かれても困る話ではないのだが、軍人故の条件反射というやつか。 無論、茂みの中に居るのは、猫などではなくモンモランシーである。 何やら、よよよと地面に手を付いて崩れ落ちている。 (やっぱり…!) 暗転した背景に奔る、一筋の稲妻。大きく見開かれた白目。額を奔る無数の細い縦線。 所謂、ガラス仮面ショックというやつである。 すこーし距離が遠かったので聞こえ辛かったのだが、最後のガトーの言葉が彼女の耳には、このように聞こえている。 即ち『茨』の『い』が消え、『薔薇の園』と。 「お、おかしいと思ったのよね…アナベルなんて女の名前だし…」 そんな事を言ったら、グリーン・ノアの狂犬に問答無用で殴られるのだが それは四年後であるし、殴られるのは転落不幸人生まっしぐらの幸薄い可哀想なエリート青年将校なので、特に気にしないでおこう。 まぁ実際のところ、その手の話はヤロー率が極めて高い軍隊内には付き物であるし こちらとは違い、女性パイロットやオペレーターが存在する公国軍内でも、そういうのはあるはずである。 無論、ガトーはそのようなご趣味は持ち合わせていないが、モンモンは突っ走っている。 モンモン自身は、一回だけガトーが髪を解いた所を目撃している。 正直、束ねている時とそうでない時では、印象というか、見た目というか、その辺りがまるで違う。 中の人だって、最初見た時は、『誰これ?今更新キャラ?』と思ったぐらいである。 そんなわけで、モンモンの頭の中では、まさに薔薇な展開がリプレイされている。 趣味悪いけど、一応、美少年と呼ばれる範疇に属するギーシュと そこいらの貴族など比較にならないぐらい、色んな風格が溢れ出ているガトー。 髪を束ねている状態であれば、いかにも軍人です。と自己主張せんばかりに鋭い目つきをし 逆に、髪を解いた状態で、どこか遠くを見据えている表情との、差がまた激しい。 ギーシュがそっちに目覚めたのなら、直撃というやつだろうと、泣きながらそう思う。 そして、絡み合う銀髪と金髪という脳内光景に、顔を非常によく赤らめさせるとモンモンが間違った決意をした。 「わたしが何とかしなきゃ…」 なお、これが後の『惚れ薬騒動』の原因である。 ほぼ一方的にとはいえ、この世界においてソロモンの悪夢が見せた初めての悪夢(精神的な意味で)であった。
https://w.atwiki.jp/msrmyaru/pages/221.html
テールを制御する装置のこと ヘッドロック? by管理人
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1958.html
黄金の使い魔-01 黄金の使い魔-02
https://w.atwiki.jp/magamorg/pages/6468.html
ジャイロキック・ドラグーン 火 コモン コスト7 3000 ティラノ・ドレイク ■S・トリガー ■このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、各プレイヤーは自分のシールドを1枚見ないで選び、自身の山札の一番上に置く。 (F)ここは防御……のフリだ! 作者:炭塵 トリガーなのに逆転に繋がらないが、効果自体は強力なクリーチャー。 このカードは寧ろコスト7を利用して煙突掃除屋ナガレボシと組ませればバルキリーが呼べるので、そこからドラゴン大量展開するデッキと相性が良い。自身はティラノですが… 「大英編(ウィスダム・コントロール)」収録 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1635.html
裏口の方にルイズ達が向かったことを確かめると、キュルケはギーシュに命令した。 「じゃあおっぱじめますわよ。ねえギーシュ、厨房に油の入った鍋があるでしょ」 「揚げ物の鍋のことかい?」 「そうよ、それをあなたのゴーレムで取ってちょうだい、取れたらそれを入り口に向かって投げてね。」 「いいけど、[錬金]で油を作る方が早くないかい?」 「馬鹿ね、ギーシュ。少しでも消耗が少ないほうがいいに決まってるでしょう?それに、ゴーレムは再利用できるわよ。」 「ううむ・・・」 「さっさと行く!」 「はいはい。」 「ハイは一回!」 「はい」 ギーシュは、テーブルの陰で薔薇の造花を振った。 花びらが舞い、青銅の戦乙女がその場に現れる。それは矢の雨の中ぴょこぴょこと厨房に走った。 柔らかい青銅に、何本も鋼鉄の鏃がめり込む。 「もっと厨房の入り口付近に出せばよかったじゃないの」 キュルケが、手鏡を覗き込み、化粧を直しながら呟いた。 「今の僕じゃあ難しいんだよ、そんなことよりきみはこんなときに化粧するのか。」 ギーシュは呆れつつも、何とか厨房にたどり着いたゴーレムに油の鍋を投げつけさせた。 キュルケは杖をつかんで立ち上がる。当然のように飛んで来た矢を、タバサが風を起こし吹き飛ばした。 「だって歌劇の始まりよ?主演女優がすっぴんじゃ、しまらないじゃないの!」 キュルケの火球が、撒き散らされた油に引火し、増幅されて入り口周辺を火の海に変えた。 それは傭兵たちに次々と燃え移り、何とか消そうとのたうち回る被害者が、生きた炎の壁となって更に被害を広げていく。 「この地獄絵図が、歌劇ねえ。過激、の間違いじゃないのかな」 ギーシュがぽつりと呟いた。 岩ゴーレムの肩の上、フーケは舌打ちをした。 突撃を命じた傭兵たちが炎に巻かれて転げ回っている。隣に立った仮面の貴族に向かって不満を呟いた。 「ったく、やっぱり金で動く連中は使えないわね」 「あれでよい」 「とてもそうは見えないけど」 「倒さずとも、かまわぬ」 「あのねえ、それじゃ何のためにわたしはいるのよ」 しかし、男は答えず一方的にフーケに告げた。 「俺はラ・ヴァリエールの娘を追う、お前は好きにしろ。合流は例の酒場で。」 「は?」 言うが早いか、男は風のように暗闇へ消えた。 「ったく、勝手な男だよ。」 下を見ると、入り口から噴き出す炎の風により弓兵までが壊滅状態に陥っている。 逃げたら殺すとは言ったものの、殺す手間の方が惜しい。 フーケは下に向かって怒鳴った。 「ええいもう!頼りにならない連中ね!どいてなさい!」 ゴーレムが地響きを立てて、入り口に近づく。 さて、どうしてくれようかしら。 ・・・やっぱり、建物にはアレよね。 岩ゴーレムの腕を、螺旋状に変化させて思い切り突き出した。 「おっほっほ!おほ!おっほっほ!」 酒場の中では、キュルケが勝ち誇って笑い声を上げていた。 「勝ち誇ってるとこ悪いんだけどさ」 ギーシュが突っ込みを入れた。 「なによ?実際勝ったも同然じゃないの」 「じゃあ、窓から見えるあれは何なんだい」 フーケのゴーレムが、地響きを立てて接近してくる。 「あは、あはは、あははははは」 キュルケの笑い声が乾いたものに変わった。 「タバサ、ギーシュ」 「なんだね?」 「逃げるわよ」 タバサは頷いた。ギーシュは首を振った。 「逃げない!僕は逃げません!」 「・・・あなたって、戦場で真っ先に死ぬタイプなのね」 タバサは近づくゴーレムを見て、何か閃いたらしい。ギーシュの袖を引っ張った。 「なんだね?」 「花びら。たくさん」 「それがどーしたね!」 「いいからタバサの言うとおりにして!」 キュルケの剣幕に、ギーシュは造花の薔薇を振った。大量の花びらが宙を舞う。 舞った花びらがタバサの風の魔法で、ゴーレムに向かっていく。 「それで?」 タバサが呟いた。 「錬金」 ゴーレムの肩に乗ったフーケは、自分のゴーレムに花びらがまとわりついたのを見て、鼻を鳴らした。 「何よ。贈り物?花びらで着飾らせてくれたって、手加減なんかしないからね!」 言いつつも、念のため少し様子を見る。 その時、まとわりついた花びらが、ぬらっと何かの液体に変化した。 土のエキスパートであるフーケはすぐに気づいた。錬金の呪文である。 油の臭いが立ち込め、それに合わせるように火球が飛んできた。 なるほどねえ。でも、この“土くれ”に錬金で挑むなんて、10年早いわ。 ニヤニヤ笑いながら既に準備していた呪文を完成させる。 「錬金!」 “トライアングル”の強力な錬金を受けた油は一瞬で土へと還り、火球に対する盾となりつつさらさらと地面に落ちた。 「さてと、余計な何かをされる前に建物ごと生き埋めにしてやるとするかねえ」 フーケは改めてゴーレムの腕を振り上げた。 「や、やっぱりダメじゃないか!!」 「思った以上に戦いなれてるわねえ」 「・・・」 キュルケたちは三者三様に落胆した。 「さあ、逃げるわよ!」 「いや、まだだ」 ギーシュが真面目な顔で呟いた。 キュルケが反論する。 「土ドットのあなたが、フーケに対してなにができるっての?」 「いいや、できるね!」 「馬鹿なこといってないで、手遅れになる前に行くわよ!」 勝ち誇ったフーケは、傭兵たちを退避させると思う存分暴れまわった。 以前捕えられた恨みもあるが、それ以上に貴族用の高級宿である“女神の杵亭”の存在自体がわりと許せなかったのだ。 「まずは裏口からブチ崩そうかねえ。」 敵を逃がさず建物を完全に解体すべく、端から潰していく。 しばらくすると、“女神の杵亭”は瓦礫の山と化した。 「さあて、あいつらはちゃんと埋まってるかしら?」 フーケは勝利を確認しようと、瓦礫の上へとゴーレムに乗ったまま踏み出した。 「な、何だってんだい!」 足元が抜け、バランスを崩したゴーレムが崩落しながら更に埋まっていく。 「よ、よくもよくもよくもおおおお!ガキ共に2度も土をつけられるなんて!」 ガリガリと引っかくような音がして、少し離れた地面からヴェルダンデに乗ったギーシュが現れた。 タバサとキュルケも後に続き顔を出す。 「ね、うまくいっただろう。なんせ、僕の可愛いヴェルダンデは[土竜]だからね。」 「シルフィードも凄いと思ってたけど、あなたの使い魔も滅茶苦茶ね。岩盤を無理矢理掘り進むなんて」 キュルケが呆然と呟いた。 ギーシュが胸を張って答える。 「鉱石の発掘だってお手のもんさ」 「絶対、主の実力に見合ってないわよ」 「失礼な、僕はまだ成長期なんだよ!」 「そうかしら」 ヴェルダンデが誇らしげに鼻をひくひくさせている頃、桟橋へとセッコたちは走っていた。ワルドが建物の陰に滑り込んで階段を駆け上がる。 「なあー、何で登ってんだよお?」 セッコの呟きは無視された。地理がわからない以上ついていくしかない。 登りきると異様な光景が目に飛び込んできた。 山ほどもある巨大な樹に、船が生っている。 「ほえ・・・何だあこれ・・・」 「何って、桟橋よ。あれが船。」 ルイズがこともなげに言った。ワルドも全く普通な様子だ。 オレがおかしいのかなあ? To be continued…… 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/214.html
ACTの使い魔-1 ACTの使い魔-2 ACTの使い魔-3 ACTの使い魔-4 ACTの使い魔-5 ACTの使い魔-6 ACTの使い魔-7